Y点(経営状況分析)各・経営指標の中身について
Y点(経営状況分析)の各(経営)指標についてみてみます。
建設業法改正により、用いられる指標は変更になる可能性があります。
現在のY点(経営状況分析)は、2008年4月の経営事項審査制度改正以降、用いられている内容です。
総合評定値の他の項目については、数度の改正があります。
参考:評点算出方法|経営事項審査|製品&サービス|経営状況分析機関のワイズ公共データシステム株式会社
実際の経営指標と異なる点として、各指標ごとで上限と下限値が定められています。
X1(純支払利息比率)
売上高に占める支払利息と受取利息や配当金の大小をみる指標です。
値が小さい方が高評価になります。
評価の上限値はマイナスになっています。
売上高が大きいか、支払利息が小さければ、高評価になる指標です。
中小企業、特に小規模事業主の場合、売上高は大企業と比べれば限られますので、負債を抑えるか低利の融資を活用するといった取り組みが有効です。
負債を抑えるとは、ここでは設備などへの投資に慎重になると言い換えてもよいでしょう。
売上高については、建設業以外の兼業売上も対象になります。
経営事項審査は大企業に有利と言われるゆえんでもあります。
公共工事を元請で受注しても、下請工事は利用できるので。
受取利息や配当金を大きくしても、評価は上昇します。
小規模の企業でここを直接大きくするような取り組みは、難しいのではないでしょうか。
中小の限られた経営資源の中で、受取利息などを増やそうとするのは、自社の事業ドメインをぼやけさせてしまうのではないでしょうか。
この純支払利息比率の分子は、損益計算書でいえば、おおよそ営業外損益と同等です。
営業損益と経常損益の差額が営業外損益です。
X2(負債回転期間)
この指標は評点の計算において、プラスにはなりません。
X1(純支払利息比率)と同様に、値が小さい方が高評価です。
値が小さい方が高評価なのは、8指標中、X2(負債回転期間)とX1(純支払利息比率)の2指標です。
自社の売上高に占める負債の割合をみる指標です。
評点改善の取組み方はX1(純支払利息比率)と変わらないと言えます。
売上高は企業規模に比例するとして。
X2(負債回転期間)では分子に、直ぐに返済する必要がない固定負債も入っています。
ここの評点が良好な企業は、高収益型で資金が潤沢な企業と言えます。
X3(総資本売上総利益率)
総資本に占める売上総利益の割合をみる指標です。
売上総利益は粗利とも言われます。
参考として、建設業の平均値は年商5,000万円未満の企業で47.5%です。
年商5,000万円以上1億未満の企業で37.5%です。
出典:中小企業の経営等に関する調査|建設業2021年8月|日本政策金融公庫
これまでの指標と同様、負債が小さい方が総資本も小さくなるため有利です。
仕入原価や人件費、外注費などを取引価格に反映できる企業も有利です。
裏を返せば、取引価格が同じなら、仕入れ値や人件費などが割高な企業は不利です。
遊休設備があると、やはり悪化しやすくなります。
総資本はどんなに小さくても3,000万円とみなされるため、小規模な事業者にとっては不利な面もあります。
総資本は2期平均の値を取ります。
例えば、資金需要が高まり、多額の短期借入を行った場合も、影響は抑えられる反面、財務を一時的に良く見せようとしても、効果が薄くなります。
X4(売上高経常利益率)
売上高経常利益率です。
ニュースなどでもよく耳にする指標ではないでしょうか。
経常利益率なので、営業外損益も影響します。
内容的にはX1(純支払利息比率)と似通っています。
支払利息が増えれば、悪化します。
受取利息や配当金が増えれば、改善します。
雑収入があっても改善しますので、営業損益と比べると、決算期ごとに変動しやすい性質があるといっても差し支えないでしょう。
コロナ禍で支給された、持続化給付金の受給で改善するといった事も起こります。
販売価格の上昇、各種経費(固定費・変動費・製造原価・外注費など)の圧縮で改善します。
売上高営業利益率や売上高総利益率と取り組む方向性は同じです。
X5(自己資本対固定資産比率)・X6(自己資本比率)
固定資産をどのくらい自己資本で賄えているかをみる経営指標です。
言い換えれば、借入によらない資産をどの程度保有しているか確認する指標です。
固定資産の例は、土地・建物(自社保有の営業所など)・建設機材などです。
- 利益剰余金などの自己資本を大きくする。
- 借入を小さくする。
- 固定資産を小さくする。
上記のような取り組みで改善します。
リースを利用しても、固定資産で計上されれば、リース利用による改善はありません。
単に建設機材などを保有しないだけでなく、償却済み(古い)の資産が増えても、結果的に固定資産の額は小さくなります。
償却済みの資産を使い続ける事で故障が増えれば、生産性への悪影響や、修繕費など利益を圧迫する要因にもなります。
新品でなく、廉価で状態のよい中古の設備を導入するなどの対策も、生産性とのバランスを取る方法かも知れません。
利益剰余金が増えれば改善する訳ですから、X3(総資本売上総利益率)やX4(売上高経常利益率)とも関連性のある指標です。
X6は自己資本比率です。
X7(営業キャッシュフロー)・X8(利益剰余金)
営業キャッシュフローと利益剰余金をみる指標です。
経営事項審査では1億円で割ると定められています。
小規模事業主でこの項目の得点アップは、なかなかハードルが高いと思われます。
利益剰余金は、黒字決算が続けば累積されて増えていきます。
赤字決算では、減少します。
利益剰余金はマイナスになる事もあります。
マイナスが大きく、借入で運転資金を回しているような状況では、いわゆる債務超過の状態に陥っている事もあります。
営業キャッシュフローとは、事業(営業)活動がどのくらい現金の増減に繋がったかを見る指標です。
営業利益では減価償却費は控除されていますし、売上債権といった現金の増加に繋がらない項目も収益として認識されています。
そういったものを加減算して、実際の現金の増減を評価する指標が営業キャッシュフローです。
営業活動と言われても、ピンとこないと思います。
営業活動と言われれば、確かに営業活動なのですが。
投資キャッシュフローとの合計をフリーキャッシュフローといいます。
参考までに、前期末の現金残高にフリーキャッシュフローを加算したものが、今期末の現金残高になります。
Y点(経営状況)の計算方法
各指標の値を以下の式に代入して算出します。
経営状況の評点:Y=167.3×A(経営状況点数)+583
経営状況点数:A=-0.4650×X1-0.0508×X2+0.0264×X3+0.0277×X4+0.0011×X5+0.0089×X6+0.0818×X7+0.0172×X8+0.1906
単位が%(パーセンテージ)などであっても、そのまま代入します。
プラスやマイナスが混在してますので、計算ミスに注意です。
各指標毎に値の幅の差も大きく、傾斜(代入後にかけられる値)もまちまちです。
どの項目がどのくらい自社のY点(経営状況)に影響するのか、評価しづらいもあります。
寄与度という指標は公開されています。
参考:経営事項審査関係(千葉県知事許可)|千葉県
9.総合評定値の計算方法のPDF 6ページ目
シミュレーションする時は、経営指標が変わった時にY点(経営状況)が何点変わるのか、都度計算してみるのが手っ取り早いのではないでしょうか。
各項目それぞれにも牽連性があり、1つの指標だけ値が変わるという事も少ないでしょう。
従業員20名以下の建設業者が対象になる補助金があります。
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経営事項審査と併せて、ご検討下さい。